「もし私がより遠くを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に立っていたからだ」
物理学者アイザック・ニュートンの言葉です。
学問の発展は先人からの積み重ねと継承……
私たちが当たり前のように享受している現代文明は、長い歴史の中で積み重ねられた巨塔の上に成り立っています。
もしかしたらこの塔の先では、どこでもドアやタイムマシンに辿り着くかもしれません。
そう。石の時代から、魂を繋いで。
① ストーリー紹介:人類史の凝縮再現
まずは、本作のあらすじをご紹介します。
舞台は現代の日本。主人公の石神千空は、科学に対して尋常でない知的好奇心と情熱を注ぐ高校生。幼い頃からの膨大な学習と実験によりおよそ高校生とは思えない……いや、人間と思えないほどの科学知識を有する超人です。
いつものように学校の科学室で実験をしていたある日、突如として地球全体が謎の光線に包まれ、人類は全て石化してしまいました。
しかし千空は冷静でした。石化した状態でも意識を保ち続け「石化が解除される瞬間」が来る可能性に賭け、時間を数えはじめたのです。
時間を数えていたのは正確な暦を把握するため。
仮に数千年後に何かの力で石化が解けても、真冬に解除されたら一貫の終わりだと考え、外の世界の季節を把握しようとしました。
そして千空の石化が解けたのは3,700年後の未来。なんと彼はその期間ずっと秒数を数え続け、ただ1人「正確な日付」を知る人物となりました。
しかし、復活できたのは彼1人。3,700年後の未来ではかつての文明も壊滅。地球上は「原始状態」となっており、石化が解けたところで絶望的な状況です。
ただ、彼はかつて存在した科学知識・原理をおそらくほぼ全て記憶、理解している男。
千空は人類が積み上げてきた科学知識を携え「全ての謎を解明し、文明を取り戻し、全人類を救い出す」ことを目標に物語は幕を明けます。
「『科学では分からないこともある』じゃねえ。わからねえことにルールを探す。
そのクッソ地道な努力を科学って呼んでるだけだ……!」
引用:『Dr.STONE(1)』(著:稲垣理一郎/Boichi 出版:集英社)80p
突如発生した石化現象という、一見科学とは真反対に見えるフィクション展開に対しても千空は、「どんな現象だろうと法則性を探すのが科学」「科学の絶対的な根本は揺らがない」とし、「ファンタジーに科学で勝ってやる」と呟きます。
目の当たりにする現代文明の再現
千空はこの原始世界で、私たちが当然のように享受している科学文明をクラフトしていきます。
この過程を見て改めて感じるのは、私たちが普段見ている文明品は、元は地球に存在した物質から人間の知恵で生み出されたものなんだなということ。
例えばスマホは何の素材からどうやって出来ているのか。
発電にしろガラスにしろプラスチックにしろ、それが最初から存在してる時代で生まれると、ほとんどの人は当然そこにあるものだと思って暮らしている。
でも改めて「この地球にあった物質から人間が知恵と努力で生み出した」ことを千空に見せてもらった瞬間、もの凄く感動するんです。
物語の序盤、千空は「原始状態の人々の村」を見つけます。この時点で理由は一切不明ですが、石化された現代人以外の人類と出会うのです。
彼らは言ってしまえば「原始人状態」で科学文明をほとんど知りません。そのため千空の科学知識・工作に度々驚愕するのですが……
私が思う『Dr.STONE』の凄さは、この構図になった時に必ずしも読者が「千空側」にいないことです。
現代人の立場から原始人に文明を披露して「どうだ凄いだろう」って得意になるんじゃなくて、「え、この世界でこんなもの作れるの……?」と、私たちは原始状態のキャラクターたちと一緒に驚けるんです。
つまりこれは、凝縮した人類史の再現。
私たちの社会や文明も、もとはといえば原始状態からのスタート。その状態から徐々に徐々に、地球上のあらゆる物質を研究・実証し、原理と法則を導き出し、文明を発展させてきた。
しかも、千空とは異なり本当の意味でゼロからです。人類はヤバい。
② 魅力紹介:主人公・石神千空の信念と魅力
『Dr.STONE』はどの登場人物も非常に魅力的。
中でもやはり主人公の石神千空には底なしの魅力があると思います。
まず、大枠のキャラ造形としては超合理的な科学者……かつ無尽蔵の知的好奇心を持つ科学大好き少年なのですが……私はその根幹に「科学は人類を幸せにするもの」という揺るぎない信念を感じます。
そもそも、千空は現代文明を取り戻すだけでなく「全人類もれなく助ける」という目標を掲げています。単に復興すれば良いわけではなく、ここは彼にとって譲れないラインなのです。
そして物語の中では、それぞれの工作に目標があります。例えば敵を制圧するために火薬を作ったり、荷物を運ぶために自動車を作ったり。
時間も限られており優先順位もあるのですが、千空は目標を作る過程で生み出したもので皆の生活を豊かにしたり、人々を喜ばせたりしようとします。
そこには「皆の士気をあげるため」「生存確率を上げるため」という合理的な理由もありますが、物語を通して彼の立ち居振る舞いを見ていると「科学は人を幸せにする」という信念を根底に感じるのです。
すさまじいな。作っているのは全く別の、無関係のものなのに。こうしてどんどん村が豊かになっていくのだな――
ああ、そういうもんだ。科学っつうのは。
引用:『Dr.STONE』(7)(著:稲垣理一郎/Boichi 出版:集英社)127p
また、とあるキャラが極度の近視に悩んでいると判明したときのお話です。
原始状態の村において視力低下は「ボヤボヤ病」という病気だとされていて、「解決しようのないもの」だと諦められていました。
しかしそのキャラは「本当は一度でいいから綺麗な世界を見てみたい」「ボヤボヤじゃないみんなに会いたい」と言います。
それに対し千空は「それは病気でも欠陥でもねえ」と言い、ガラスを作る過程でメガネを生み出し、そのキャラクターにかけてあげました。
この、メガネを付けて初めて綺麗な世界を見たシーンが私は本当に好きで。人類がここまで発展してきた本質はきっとこうだよなって。
綺麗な世界を見たいからメガネを作った。病気を治したいから薬を作った。空が飛びたいから飛行機を作った。
その願望から生まれる情熱の積み重ねが今の世界なんだなと実感します。
その意志は現在進行系で受け継がれている……この世界にはまだまだ「出来ないこと」があり、様々な分野で挑戦は続けられています。
すごいの~、人って。欲張りで。翼が無いなら、諦めないんだもの。作っちゃうんだもの。科学で何百万年もかかって。
引用:『Dr.STONE』(10)(著:稲垣理一郎/Boichi 出版:集英社)186p
③ メッセージ解釈:科学讃歌?否、人類讃歌!
本作のメインテーマは「科学」ですが、私はもっと広く「人類の可能性や尊さ」にフォーカスが当たっていると解釈します。
千空はチート級の科学使いですが、彼1人で文明を復興させることは出来ません。当然マンパワーが必要になります。
そして『Dr.STONE』の主要キャラクターたちは、何か1つ”得意分野”を持っていることが多いです。
手芸や裁縫が得意、人心掌握のプロ、隠密行動が得意、無尽蔵の体力、職人気質の工作能力、人並み外れた聴力、世界トップクラスのプログラミング力と数学力など、千空に負けず劣らずのチート能力を持ったキャラを始め、各キャラには大なり小なり長所や得意分野を持っていて、ちゃんとそれぞれが適材適所に活躍しています。
これはおそらく意図して描かれている部分です。
例えばとある怪力のキャラは、千空が科学の力を使って大活躍してることに嫉妬の念を抱くのですが、千空は彼にこう言います。
「色んなやつがいるのが強さなんだよ」と。
どっちが欠けてもできねえんだよ。手分けしてただけだ。
科学文明じゃ俺らヒョロガリも必須だし、テメーみてえな筋肉雑アタマも必須だ。なーんも得意がねえ奴だって、いつかなんかの役に立つ。
いっろんなやつがいる=強さなんだよ!!
――『Dr.STONE(7)』(著:稲垣理一郎/Boichi 出版:集英社)66pより
千空は科学だけでなく、それぞれの人間のプロフェッショナルを信頼します。そして人間そのものに価値を見出し、それらが集結することの強さを知っています。
自分には自分の役割があり、その役割を全うすることに集中する。その信頼関係とチームワークは、「人類の尊さ」という根拠に裏打ちされたものだと、私は解釈します。
また、本作では文化や芸術といった「人間が生み出してきた尊いもの」にもフォーカスが当てられます。
つまりこの作品は、「人間が何かに打ち込み・立ち向かう姿勢」や「人間が生み出すもの」を礼賛している……科学讃歌ではなく“人間讃歌”であるように感じます。
主人公の千空が科学担当だから物語の中心になっていますが、この作品の本質は全ての学問・産業・文化を価値あるものとして描いていることだと私は思います。
おまけ:大好きなキャラクターについて
最後に一人、私が愛してやまないキャラクター、七海龍水について触れさせてください。
彼は「世界一の欲しがり屋」を自称する財閥の御曹司で、名実ともに強欲な男です。
彼は単にワガママ・目立ちたがりというわけではなく、本当の意味で度を超えた欲しがり屋。
千空に負けず劣らずの切れ者で、欲しいものを手に入れるためにあらゆる手段を尽くし、努力を惜しみません。
龍水に対して千空は「欲しい!は科学の原動力だ」といってその強欲さをむしろ歓迎します。
欲しい!は科学の原動力だ。それがなきゃ一歩も進まねえ。新しいもん作るたんびに、未来のもんに繋がってくんだよ……!!
――『Dr.STONE(11)』(著:稲垣理一郎/Boichi 出版:集英社)74pより
「欲しいものを絶対に諦めない」という強欲さを原動力に、理知的な思考を駆使して不可能を可能にしていく。
その姿がもうハチャメチャにカッコイイんです。
私は、欲を「悪いもの」として否定する見方があまり好きではありません。
もちろん「足るを知る」という考え方は大切です。
ただ、人間を前に進ませる原動力として「欲」はとても尊いものであると考えます。
これは持論ですが、私たちの未来で絶対的に確定していることは”死”のみです。
であるならば、その死までの過程にもし何のご褒美もなければ、私たちの”未来”はネガディブな意味を持つだけのものになってしまう。
でも、これから先に「あれを成し遂げたい」「あれを手に入れたい」という欲があるなら……少しだけ未来に進む勇気が湧く。欲があることで、明日を生きられる人間もいるんです。
漫画第92話のタイトルにもなっていますが、龍水に仕える執事のフランソワは「欲しい=正義」だと言い切ります。
積極的な姿勢で欲を肯定し、「欲しい」を原動力に物事のパフォーマンスを最大化・最適化していく。
そのアグレッシブさには本当に勇気を貰えますし、尊敬しています。
心から望むものに「そこまでして欲しくない理由」をあげつらうのは簡単なのです。傷つく前に諦められる。龍水様は自分を欺かない。欲しいものに欲しいと叫び進み続ける。少なくとも私はそれを自堕落とは呼ばない!欲しい=正義です!!
――『Dr.STONE(12)』(著:稲垣理一郎/Boichi 出版:集英社)21~22pより

