『マチカネ』のルーツ、待兼山を辿る【2024生誕祭】

「夜をかさね待ちかね山の郭公(ほととぎす)くもゐのよそに一声ぞきく」

この歌は『マチカネ』のオーナーである細川益男さんが、所有馬でG1を制覇した折に冠名の意味と共に発表しようと、長らく心に留めていた一首です。
馬主になって30年。幾度の夜を重ね、待ち兼ねに待ち兼ねてG1を制したのは……1997年菊花賞の覇者マチカネフクキタル

今回はマチカネフクキタルの誕生日を記念して、マチカネに縁深い「待兼山」に訪れた際のレポートを綴りたいと思います。

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『マチカネ』の冠名の由来となった待兼山

細川益男さんの所有馬に付けられた冠名『マチカネ』の由来になった待兼山は、大阪府豊中市・池田市・箕面市にまたがる標高77mの里山です。
細川さんの母校である旧制浪速高等学校(現:大阪大学豊中キャンパス)の敷地内に待兼山があり、ご本人と非常に縁深い場所であることから名前を借りたとのこと。
そして、細川さんが大切にされていたのは、冒頭でも紹介したこの和歌。

「夜をかさね待ちかね山の郭公(ほととぎす)くもゐのよそに一声ぞきく」
(現代語訳:幾晩も待ちかねていた待兼山のほととぎすを、空の彼方にやっと一声聞いたことだ)

この歌に倣い冠名には「G1は簡単に獲れるものじゃない。獲った時には『待ち兼ねた』と喜びたかった」という想いも含まれていると言います。
実際、細川さんの所有馬がG1を制したのは馬主になってから31年目のこと。600頭以上の所有馬たちが挑戦を重ね、長年待ち兼ねに待ち兼ねた末に福を届けたのがマチカネフクキタル。「名は体を表す」を象徴するようなエピソードと言えます。

いざ大阪!

ではでは。まずは大阪府へ向かいます。筆者は関東住みなので東京から新大阪へ。新大阪へ着いたら梅田駅に移動。そして大阪大学の最寄り駅「石橋阪大前駅」へ向かいます。

石橋阪大前駅からは徒歩10分くらい。しばらく歩くと大阪大学が見えてきます。

まずは博物館を見学

待兼山へ登る前に「大阪大学総合学術博物館」を見学させてもらいました。入館料は無料で、土曜日もやっているのが嬉しいところ。
ここでは大阪大学にまつわる資料や展示を鑑賞することが出来ます。3階は「待兼山に学ぶ」というテーマで展示が行われており、待兼山の歴史や自然、文化的価値を学べます。

展示によると待兼山の大きな特徴は「里山的自然」であること。里山は年々利用価値が低下しており、放置されて荒れ果てるかゴルフ場などに転用されることが多いそうです。
しかし待兼山は憩いの場や自然観察の場として整備が進んでおり、里山の雰囲気を残した貴重な場所であると言います。人里に近い自然に適応した虫や植物の解説を詳細に学ぶことが出来ました。

里山とは
集落や都市の近くに位置する山や森林のこと。
人が長年利用し干渉することで形成された自然で、「自然資源供給」「景観形成」「国土保全」「文化伝承」「身近な自然とのふれあい場」という役割がある。

また、大阪大学といえばマチカネワニが非常に有名。大学のマスコットキャラクターやロゴにも採用されており、この地を象徴する存在です。


画像引用:大阪大学公式ホームページ

博物館の1階と3階には原寸大の巨大な化石標本が展示されており、3階の展示では「大腿骨」「足骨」「骨鱗」など、骨が部位ごとに展示され解説を読むことが出来ます。

マチカネワニとは
第四紀更新世チバニアンに生息していたと言われる、全長約7mの大型のワニ。
大阪大学豊中キャンパスの理学部周辺で化石が発見されたことから「トミストマ・マチカネンセ」と命名され、和名で「マチカネワニ」と呼ばれるようになった。

待兼山に登る

待兼山について詳しくなったところで、実際に登っていきましょう。
初めてなので念の為、大阪大学の方に許可を取ったところ「いつでも登って大丈夫ですけど、奥の方は整備されてないので気を付けてください」とのことでした。


弱い雨がしとしとと降る中、まずはコンクリートで舗装された遊歩道を通ります。非常になだらかな勾配。
少し進むと、両端の木の枝が覆いかぶさるようにアーチを描き始めました。おかげで、この程度の雨ならほとんど防いでくれて快適です。
ほんのり湿った空気と道、枝と葉に小雨の雫がぱちぱちと当たる音が響きます。

最初の階段。先程よりもやや勾配がきつくなりますが、まだかなり緩やか。ここでは完全に葉っぱが傘になって濡れることがありません。
先ほど「里山的自然」が特徴だと学びましたが、このあたりの空気にそれを感じます。いわゆる山の匂いが半分、街の匂いが半分といったような不思議な空気。自然の中にいながらも、人里に極めて近い環境だからこそ成せる空気感かもしれません。

アーチを抜けると分かれ道。ここからは少し雨が当たります。
まだ舗装された遊歩道が続きますが、休日ということもあってか人の気配は一切ありません。
静まり返った道に時折響くホーホケキョ。小雨の葉音。住宅街から聞こえる謎の叫び声。全ての音が1つずつ耳に残ります。
湿度は高いはずなのに、冷たく爽やかな風がゆっくりと通り過ぎて心地が良い。

歩き続けていると、頂上に向かう舗装されていない道に行き当たります。職員さんが仰っていたのはこれのことだろう。
突然急になる勾配を、柔らかい土と滑りやすい落ち葉に注意しながら登っていく。すると……

待兼山登頂

待兼山の頂上へ到着しました!標高77mなのであっという間に登頂。
山頂を表す標識と三角点が置かれています。


山頂の一帯はやや狭めで、その周囲には青々と草木が生い茂っています。
この辺りになるとかなり虫が多いです。博物館でも、待兼山に生息する虫について詳細な展示があり、何でも「里山に適応した虫」たちが四季折々に存在しているとか。

そして、存在感があるのはこの大木。標識が置かれている場所にそびえ立つ立派な木です。
麓に増して人の気配が無く、しいんとした空気の中で空を見上げると、四方から伸びる緑と鉛色の空。山頂なのに閉塞的という不思議な感覚ですが、この閉じられた雰囲気に自然と心が落ち着きます。

せっかくなので待兼山との2ショットをパシャリ。
マチカネフクキタルin待兼山。

マチカネと縁深い素敵な場所


標高77mということもあり登頂難易度も低く、希少な里山的自然を体感できる待兼山。
1度は訪れたいと焦がれていた場所なので、願いが叶って感無量です。
大阪に訪れたマチカネファンはぜひ。博物館も非常に興味深い内容が多く、面白かったです。

さて、ではせっかく大阪くんだりまで来たので……
春天でも観て帰りましょうか。
※撮影日:4月27日

【撮影場所】大阪大学豊中キャンパス
【住所】〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1
【参考文献】週刊100名馬 マチカネフクキタル

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