漫画『ダービージョッキー』を紹介【競馬書籍レビュー】

【競馬書籍レビュー】では、競馬に関する書籍(漫画、小説、自伝、随筆、予想本etc……)を、いち競馬ファンが紹介していきます。
なお、これから購入する方への参考になればと思っていますので、ネタバレは極力控えてあります。

第一回となる本記事では、競馬漫画屈指の名作「ダービージョッキー」について綴りました。

作品紹介「ダービージョッキー」

ダービージョッキー』は、週刊ヤングサンデーにて1999年から2004年まで連載されていた競馬漫画です。
日本のトップジョッキーである武豊さんが原案を担当したことでも話題を呼びました。

この物語の主人公は、馬に乗ることが大好きな競馬学校の生徒、上杉圭(うえすぎ けい)。
人並外れた柔軟性があり、どこか素質を感じさせる選手ですが、勝負の世界で戦っていくには少し頼りない雰囲気を持っている少年です。

上杉圭
出典:一色登希彦『ダービージョッキー1』| ヤングサンデーコミックス

そんな上杉は、自身が競馬学校の卒業を控えたある時、一頭のサラブレッドと巡り合います。
その馬の名前はフラワーカンパニー。才能はありながらも怪我で引退し、競馬学校へ寄贈された練習馬です。

この馬はとにかく気性が荒く、校内トップの秀才が乗っても振り落とされる始末。
このまま練習にならないようでは、フラワーカンパニーは競馬学校での役目を果たせずに去ることになります。

しかし、フラワーカンパニーが校内で走る姿を初めて見た上杉はこう呟きます。

「ホントに……みんなして手ェ焼いたんか?」
「俺には、すごい良い馬に見えんねんけど……」

これが、上杉とフラワーカンパニーの出会いでした。

物語の序盤はこの一頭のサラブレッドを通じて、上杉が騎手として、そして人間として大きく成長していく様が描かれています。

ちなみに、フラワーカンパニーのモデルは希代の逃げ馬「サイレンススズカ」だと言われています。
この馬のモデルを意識しながら読むと、豊さんが何を想い何を伝えたかったのかが少しだけ分かると思います。

【魅力1】絶妙な心理描写が織りなす、繊細な人間ドラマ

この漫画の作画は、一色登希彦さんが担当されています。
震災をテーマにした「日本沈没」を描かれたことでも有名で、人物のリアルな成長や繊細な心理描写に定評がある漫画家さんです。
今作でも多くの登場人物による人間ドラマが繰り広げられており、原案はあれど、一色さんだからこその世界設定なのかなと感じました。

とにかく登場人物たちのキャラクターが濃いです。それぞれの人間が自身の人生哲学や悩み、希望を持っていて、それが丁寧に描かれているのが印象的でした。

中でも、特に注目して見てほしいのは、主人公上杉の挫折や成長です。
本当にこの主人公は精神のアップダウンが激しいです。悩みを解決した次の瞬間には、また別の何かに思い悩むような展開が待っています。

そして、その悩みの中でも、ストーリーを通じてずっと抱えている「永遠のテーマ」があります。
それは、「自分はなぜ騎手になりたい(なった)のか」という問いです。


出典:一色登希彦『ダービージョッキー2』| ヤングサンデーコミックス

上杉は競馬関係者の息子ではありません。ましてや中学まではサッカーに打ち込んでいて、続けていればプロになれるくらいの才能がありました。
競馬学校ではどこかおっとりしていて、他の生徒と比べると闘争心も薄いように見えます。

そんな上杉は、周囲の人間から「なんで騎手になりたい(なった)のか」と問われ続け、また自身でも問い続けます。

上杉は最初、「馬(に乗ること)が好きだから」という答えを出していましたが、それは本質では無いんですね。
本人も無自覚なその答えを見つけた時、上杉の心情はどうなるのか?

喜び、安堵、失望、葛藤………
答えが見つかってからの心理描写が本当に絶妙で、めちゃくちゃ惹き込まれました。

【魅力2】競馬ファンなら分かるエピソード満載。原案:武豊の強み

何といってもこの漫画の売りは、「原案:武豊」じゃないでしょうか。
現役のトップジョッキーから見た競馬の世界を反映させているので、ストーリーに深みが出ているのが大きな特徴です。

リアリティとフィクションが良いバランスで融合されていて、競走馬(騎手)の物語としても人間ドラマとしても高いレベルで楽しめる作品になっています。

とはいえ、「こんなのリアルではありえないでしょ」というシーンや展開も当然出てきます。
そこをフィクションならではの面白さと取るか、ご都合主義と取るかは人それぞれだと思います(筆者はこのレベルなら圧倒的前者)。

また、競馬ファンなら「これはアレが元ネタだな」と分かるのでニヤニヤできたりもします。
特に豊さんの父、武邦彦さんとのエピソードがよく使われているように感じました。

ちなみに、コミック版の裏表紙には豊さんからのメッセージが掲載されています。

一巻の裏表紙

そして、各登場人物にもモデルがいるそうですが、これは読者によって違う人をイメージをして良いと思います。
「このキャラクター、あの騎手に似てるな」って考えながら読むとさらに楽しいですよ。

【魅力3】競馬ファンや夢追い人に突き刺さる、名言の数々

そして、この漫画はとにかく名言が多いです。それぞれの登場人物がみんな、自身の人生哲学を持っているので、一言一言に重みがあります。

中には説教臭いと感じる人もいるかもしれませんが、自分は大好きですね。
競馬が好きな人や、何か夢を追っている人にはとても刺さるんじゃないかなと思います。

今回はひとつだけ、少し異色ですが自分が好きな名言を紹介します。

主人公上杉が所属する厩舎の調教師、武上先生の言葉です。

アホな妄想や。
人間ちゅうのは、馬になりたくてなり損ねた生き物なんやないか……となあ。
馬の、あの気持ちの純粋さ……生命力、ただ速く走ろうとする、意志……
時々、馬そのものになりたいと思っとる自分に気付くことがある。

ホンマは馬はな、声を発しとるんや。せやけど、馬になり損ねた人間はその声をよう聞き取れんようになってしまった。
わしらは、馬という”なりたかった生き物”に全身全霊で仕えなあかんのや。
それなのに、ちぃとばかりこちらの気持ち通じんからと腐ってもうたら……すぐさま馬に見放されてまう……とな。

これは、上杉がお手馬の調教に苦しみ「馬の気持ちが分からない」と相談したところ、「そんなのワシにも分からんよ」と前置きしてから語り出した言葉です。

初めて読んだときは鳥肌でしたね。妙に腑に落ちたのを覚えています。

馬を好きになる気持ちって、小動物を愛でる「好き」とは全然違う感情なんですよね。
もっと純粋に生命として尊敬や憧れを抱いていたり、時には自己投影したり。「生き物としてこうありたい」と無意識に思っている時は、確かにあります。

「本当は馬になりたかったから惹かれる」というのは、素敵な解釈だと思いました。

もっと紹介したい名言は色々あるのですが、やはり前後の文脈やストーリーの流れがあってこそなので、ここでは控えさせていただきます。

【気になったところ】各話のタイトルで展開が分かる

では、読んでいて気になったウィークポイントもひとつ。
それほどネックでは無いのですが、各話のタイトルが直球すぎて、先の展開が分かってしまうことが多かったですね。

例えばレースの終盤、最後の直線でデッドヒートを繰り広げている中で「○○、散る」みたいな。

特に衝撃的だったのは1巻。模擬レースの最中から話が始まるところがあるんですけど、そのタイトルの絶望感と言ったら……

結構ネタバレタイトルが多いので、そこは承知しておいた方がいいかもしれません。

まとめ

『ダービージョッキー』は、競馬を題材とした深い人間ドラマが印象的な作品でした。
自分自身、この漫画から学んだことが沢山あります。

そして個人的に、漫画でここまで目頭が熱くなったのは久しぶりでした。
競馬ならではの手に汗握る展開に、繊細な心理描写。競馬を愛する人にはぜひオススメしたい作品です。

ダービージョッキーは、漫画アプリ等で数巻は無料で読めるので、気になった方はチェックしてみてください。

では、また次の【競馬書籍レビュー】でお会いしましょう。


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